大判例

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札幌家庭裁判所 昭和42年(少)1494号

主文

少年を札幌保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年の母D・Z江の夫D・G(当時四八年)は、平素酒にひたつてほとんど家業の職業に従事せず、酔つては、Z江や少年に殴る、蹴るの乱暴を働くばかりでなく、時には、「殺してやる。」と言つて、鎌や出刃包丁などをもつて追いかけまわし、あまつさえいやがる少年に情交関係をいどんで出産させるなど勝手気儘な行動をとつていたため、Z江や少年は、同人の乱暴をおそれて、極度におびえた生活を送つていた。

少年は昭和四一年一一月○○日午後六時頃新冠郡○○町字○○×××番地の自宅茶の間において、昼頃から焼酎を飲み続けていたGから酒を買つてくるように言われたが、仕事に疲れていたうえ、酒屋は約五粁離れた遠方にあり、それにまだ三、四合の焼酎が残つていたことなどから「暗くなつたからいやだ、まだ残つているからそれを飲んだらよいでしよう。」と素気なく答えたため、Gはにわかに激昂し、「親に口答えするのか。」と叫んで、湯のみ茶碗を少年に投げつけた。そのとき、Z江が「これだけあるから買いに行かなくてもよいでしよう。」と口添えしたため、ますます激昂したGは、少年に対し一〇回以上も背中や腰を殴つたり、蹴つたり、髪を引つ張つたりしたうえ、「お前たちうじ虫は二人とも出刃もつてきてぶつ殺してやる。」と叫んで、少年の右手首をにぎり、出刃包丁のある台所へ引つ張つて行こうとした。少年は、台所へ連れて行かれては、本当に殺されるかも知れないと身の危険を感じ、とつさにGの胸の辺りに体当りして同人をその場に倒したが、このとき足元に日本手拭が落ちているのに気付き、自己の身体生命を防衛するため、この際同人を絞め殺すほかないと決意し、右手拭を拾いあげ、Z江も少年に加担して、同人を隣室の八畳間に引つ張り込んだ。少年とGとはそこで組み打ちとなり、激しくもみ合つたが、少年と同じくGに台所の出刃包丁を取られては本当に殺されるかも知れないと身の危険を感じたZ江も少年に加勢したこともあつて、少年がGを組み伏せて馬乗りになり、Z江もGの足を押えつけ、Gが二人をはね返えそうとして首を上げた隙に、少年は、防衛に必要な程度を超えて、先ほどから手にしていた手拭をGの首に巻きつけ、強く絞め続けた。Z江は、Gの苦しそうな声を耳にして顔をあげ、はじめて少年が手拭でGの首を絞めているのに気づき、自己の身体生命を防衛するためこの際、少年に加担してGを絞め殺そうと決意し、防衛の程度を超え、被告人の持ち手拭の一端を手に握り、少年と共に力まかせに引つ張り続け、ついにその場で、Gを窒息死するに至らせ、よつて少年は、Z江と共同して同人を殺害したものである。

(適条および要保護性)

刑法第一九九条、第六〇条

被害者のGは、少年が満二歳の頃少年の母Z江と結婚し、以来少年と同居してきたのであるが、この間少年に対し父としての愛情も言動も示すことなく、家業である農業もほとんどZ江と少年にまかせて飲酒にふけり、あげく家族に乱暴したり刃物をもつて脅したりの乱業を繰り返えし、しかも少年が中学二年の時少年に性交渉をいどんで以来、いやがる少年を暴力でおどして性関係を続け、これに対してZ江がGに対し少年を別居させることを提案しても、Gがこれに反対してZ江をおどすことなどから、決然たる措置を取れないままずるずるとそのような状態を継続してきた。そして本件非行は、少年が、前示のようなGの身勝手な要求を拒んだためGから激しい暴行を受け、かつ、刃物で身体生命に危害を加えかねない態度を示されたため、身の危険を直感した少年が、この危険を避けるべくその場にあつた手拭を見てとつさにGを締め殺すことを決意して防衛の程度を超えて敢行した。いわゆる過剰防衛行為である。本件非行の動因については、判断力、内省力に乏しく、知能も低く、情操に欠け単純で行動的な少年の性格にも原因があるとはいえ、Gの前記乱業、乱暴に重大な原因があり、かつ少年の実母の立場にありながらGと少年との不純な関係を決然たる態度をもつて精算することを怠り、しかも少年の本件非行を止めることなくこれに加担したZ江にも重大責任があるというべきである。そして少年の右性格上の欠陥も特に病的なものではなく、現に少年は中学卒業後前示のような悪環境の下で家業の農業をよく手伝い、Z江と共に仕事の中心として働いてきたものであつて、本件非行は正に右のような特異な情況下における一過性のものとみるべく、少年は通常の社会生活には充分に順応しえ、従つて少年が今後再び犯罪を犯すに至る可件性は決して大きいものとはいえない。

少年は本件に関し、逮捕、勾留、観護措置などにより六ヶ月余の長きにわたつて身柄を拘束され、家庭裁判所、検察庁、地方裁判所を経て再度当家庭裁判所の審判に付されたものであり、この過程において本件非行の重大さとこれに対する自己の責任は充分にこれを認識したであろうし、同時に少年の心理状態も非行直後の不安定な状態から相当程度脱却したであろうと思われる。

本件によりZ江と少年とが身柄を拘束された後、少年の兄D・Uが従来の出稼ぎ生活から家業に帰り、苦境下に、親族、近隣者等の援助を受けながらよくこれを支え、家業の今後についても明るい見通しを持ち、同人は未だ若年ではあるが、当審判廷において、少年が帰宅した際にはこれと相協力して家業を立てていく決意と自信とを述べ、親族、近親者もこれに対し理解と協力を惜しまぬ態度を示しているなど、少年に対する受け入れ態勢は良好であり、これに対して少年も右受け入れ態勢に願応しようとの意思を十分にもつているものと認められる。

本件は殺人という重大な犯罪であり、その社会的責任、社会に与える影響は重大といわなければならないけれどもひとたび少年の健全な育成を本旨とすべき少年法の基本理念に立ちつつ、以上の諸事情を綜合勘案するならば、今更少年を施設に収容したうえでこれに矯正教育を施すまでの必要性は認められず、この際少年を前示のような受け入れ態勢にある自宅に帰えしたうえで、適正な性格矯正および環境調整の措置を講ずるのが適当と認められる。そして当面少年を自宅に帰すに当つては、少年と同居しこれを直接保護監督すべき者としては若年の兄Uが居るのみであり、これを側面より助言、援助すべき親族、近隣者もかなり遠方にあつて常時少年に接しその保護育成に関与することはできない状況にあるところ、少年の心理状態はかなり平静に復しているとはいうものの、本件の罪質および特異性に照らして、今後少年の心理が生活上の種々の困難に遭遇した場合にかなりの動揺を示すべきことは充分に予測しうるところであり、加えて少年の性格には、内省力、判断力の欠除や対人関係における共感、繊細さに欠けるなど情操面での欠陥があつて、これらの諸欠陥を補充しつつ少年を健全に育成するためには、性格矯正および環境調整に関し、専門的立場からの助言、介入が必要であり、従つて少年を相当期間に亘つて保護観察に付するのが相当と認められる。

よつて、少年法第二四条第一項第一号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 浜崎恭生)

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